会計事務所向け新システム「A-SaaS」
クラウドコンピューティング・SaaSを駆使した会計事務所向け新システム「A-SaaS」
SaaS ベンダーのアカウンティング・サース・ジャパン株式会社(東京都新宿区)は今年9月、ソフトウェアを保有することなく、データセンターへアクセスするだけで、アプリケーションを使える財務システムサービスをスタートする。従来のソフトウェアベンダーとは違い、同社は「SaaS会計事務所プロジェクト(A-SaaS)」を立ち上げ、会員会計事務所の協力の下、クラウドコンピューティングとSaaS 技術を駆使したアプリケーションを企画・開発してきたベンチャー企業である。
『SaaS 会計事務所プロジェクト(A-SaaS)』の中身と今後の展開について、同社社長の森崎利直氏に話を聞いた。
[出典:月刊 実務経営ニュース 2010.09]
「SaaS会計事務所プロジェクト(A-SaaS)」とは
―― まずは、アカウンティング・サース・ジャパンの経営目的、理念からお伺いします。
日本初のクラウドコンピューティングによる会計事務所向けSaaSシステムを提供する、これが当社の事業目的になります。そして、企業理念は、会計事務所のシステムイノベーションを通じて日本の中小企業を元気にすることにあります。
日本の企業、特に中小企業においては、会計事務所の役割は大変大きなものがありますので、会計事務所がシステム的にも、経営的にも今より深く顧問先に関与することによって、最終的には日本経済の活性化を目指そうという目的で「SaaS会計事務所プロジェクトA-SaaS)」を立ち上げました。
―― そのSaaS会計事務所プロジェクト(ASaaS)についてご説明いただけますか。
当社は会計事務所業界初のクラウドコンピューティングによる会計事務所向けSaaSを提供するばかりではなく、45年間の歴史を持つ現行の会計事務所向けシステムを一から見直します。そして最新のコンピュータテクノロジーを駆使して、最新の顧客ニーズを反映することによって、会計事務所のベストなシステムを再構築いたします。そのために、会計事務所の皆さんと一緒になって新たなシステムを企画、開発する仕組みが今回の「SaaS会計事務所プロジェクト(略称A-SaaS)」です。
―― 目下開発をされているA-SaaSの顧問先向け財務会計システムは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
当社の顧問先向け財務会計システムは、会計事務所に無償IDを提供する形になります。会計事務所は、その無償IDに導入指導料等を付加して顧問先の自計化を進める形になります。顧問先企業はそのIDを使って会計事務所同様にA-SaaSのデータセンターとの間で、日々の会計処理を行うことができます。要は会計事務所と顧問先が同じアプリケーションを利用して、データをリアルタイムに共有できるわけです。
具体的には、顧問先が日々伝票入力をする。会計事務所が日々検証、監査を行う。そして、問題等が発生すれば税理士の先生なりが即指導に入る。このような形を実現できる環境を整備することがA-SaaSシステムの大きな目標でもあります。
このような仕組みが出来れば、企業経営者にとっては本当に安心だと思いますし、会計事務所の先生にとっても、より企業経営に関与したいという従前からの夢が叶うことになると思います。
―― 料金体系はどのようになるのでしょうか。
料金は会員になるための入会金10万円と、開発費を皆で分担する開発預託金20万円、それに利用料の月3万円です。利用料金は6IDまでが3万円で、1ID増える毎に3千円です。
これで、財務、税務等、開発される全てのソフトが常に最新の状態でご利用になれます。従って、税制改正、バージョンアップ費用のご心配もありません。
当社の試算では、5年間のコスト比較をすると、現行のPC会計システムの2分の1以下、専用機システムの場合には5分の1以下のコストになります。
具体的には、利用料が月額3万円+3千円x追加ID分、その他に設備としては5〜7万円のPCx必要台数、プリンター、それにインターネット環境となります。サーバーはもちろん、必要ありません。また現在使用中の機器も確認は必要ですが、使用出来る可能性はあります。
―― ひところ業界では「ASP」がもてはやされましたが、ASPと今回のクラウドコンピューティング・SaaSとの相違点は何でしょうか。
技術革新の視点で言うと2つあります。
ひとつは、ASPの時代に比べ、今は光ファイバーも普及し、ブロードバンド化が進んでシステムの利用環境が大幅に改善されたということです。それともうひとつは、サーバーシステムにおける仮想化が進み、マルチテナントという技術が生まれてきたことです。
マルチテナントとは、サーバーの頭は本当はひとつなのだけれども、仮想化によってその中にいくつもの頭があるが如く動く、つまり、いくつもの仕事を同時にこなすことができるという技術です。この技術を使うことで、データセンターのコストが格段に下がり、その分、ユーザーに安くサービスを提供できるようになった訳です。
完全にIT革新に出遅れてしまった会計事務所業界
―― クラウドコンピューティングを会計システムに活用しようと考えたきっかけをお聞かせください。
クラウドコンピューティング・SaaSの考え方や利用メリットが、会計事務所業界のシステム構築に非常に適していると思ったからです。それが一番のきっかけです。
クラウドコンピューティングの構成要素である端末、回線、センターは、よく考えてみると、この業界では昔から多くの会計事務所が利用しているTKCさんとよく似ています。私が初めて会計事務所の仕事をしたのはオリベッティでTKCさんのお仕事でしたから、その時と同じような感慨を今回も受けました。
クラウドコンピューティングのマーケットは、2015年にはアメリカでは16兆円、日本でも経済産業省の試算では2兆円規模になると予測されています。このような状況を見る限り、パソコンが生まれた25年前の衝撃にも増して、コンピュータ業界に大きな転機が来ていることは間違いありません。
それなのに、45年前から先駆的にコンピュータ化に取り組んできた会計事務所業界では、残念ながらクラウドコンピューティングやSaaSというその言葉すらあまり聞かれません。話題としては唯一経済産業省が中小企業向けに立ち上げた「J-SaaS」がありますが、会計事務所向けのシステムはありません。会計事務所業界はことコンピュータに関しては、世の中の流れから完全に取り残されていると思っています。
米シリコンバレーに開発部隊を置き、最新技術を採用
―― A-SaaSの開発方法についてお聞かせください。
基本的には社内で企画、設計を行って、開発、検証は社外で行っています。ただ実務的な検証は開発委員や一部会員の皆さんにもお願いをしています。
企画、開発の特徴は、会員の皆さんのニーズを出来るだけ吸い上げることが出来る仕組みを取っていることです。具体的には、A-SaaS会員は専用のウェブサイトを通じて、開発中のシステムを任意にダウンロードして使用することが出来ます。そして、実際に使っていただいた結果のご要望やご意見をベースに企画や開発を行っています。
ここでもう一つ特徴的なことがあるのですが、いただいたご要望やご意見を当社が直接判断をしてシステム開発に反映するのではないと言う点です。私たちはシステム屋ではありますが、会計事務所の日々の実務には携わっていません。
そこで会員からのご意見を検証して吟味していただく「ユーザー開発委員」の制度を設けました。全国各地で選抜された、会計事務所の実務とコンピュータシステムに詳しい若手の税理士さん22名です。その先生方の検証と吟味を受けて、開発すべきだと決まった内容を私たちが具体化して開発をする、私たちはそのような仕組みで開発を行っています。
当社の開発コンセプトは、「会計事務所の実務に即したシステム作り」ですから、これからも徹底した顧客、現場志向を目指したく思っています。
―― 実際にそのβ版を使われている先生方からはどのような感想をいただいていますか?
WindowsアプリケーションからWebアプリケーションに変わったわけですから、基本的に使い勝手は大きく変わります。例えば、入力の手順なども自分で簡単に選択できますし、レイアウトもバックの色も自分で好きに変えられます。そんなPC風な使い方ができるシステムがやっと会計事務所業界にも表れた、そんな印象をお持ちのようですね。ですから、昔、専用機に慣れ親しんだ経営者の先生よりも現場の職員さんに評判が良いです。
私たちは、これまで使われてきた会計事務所のシステムを、ここで一度全部洗い直してみようと考えています。具体的には、いま業界で使われている様々なシステムから、良いとこ取りをしようと考えているのです。もちろんコピーをしようという話ではなく、色々なシステムをお使いになっている会員の皆さんから、良いところ悪いところをお伺いして、ベストなシステムを作ろうということです。
―― 当然、これまで会計システムの開発に携わっていた人たちが開発に携わっているわけですね。
もちろん、そうです。開発には様々なフェーズがありますが、その中で一番重要なのは企画だと思っています。その点、当社の企画部門には会計事務所業界で20年以上システムの企画に携わってきた専門家が揃っています。加え、税理士資格を持ったメンバーもいますので、少人数ではありますが他社と比べても遜色ないと思っています。
また、当社は米シリコンバレーに開発部隊を置いています。これは白紙から作るのであれば、米国のクラウドコンピューティング、SaaSの最先端技術を駆使したいとの思いがあったからです。事実、米国とのこの分野における技術格差は、日本では2〜3年と言われますが、米国にいる技術者の話ではもっと大きな開きがあると言います。
ただ基礎となるSaaS基盤やデータベースの開発は米国で行いましたが、サービスイン後、実際に運用するのは日本国内のセンターですし、アプリケーションの開発、メンテナンスを行うのも日本国内の企業です。当社のお客様は会計事務所で、中小企業の財務、税務、また違った視点で言うと、お国の徴税業務に関わる重要な仕事をされていますので、万一でも事故があっては困る訳です。その意味でも、外国の法律が適応されない日本国内でサービスを提供することは、最低限度の条件と思っています。
会計事務所とともに発展
―― 会員数等、現在の状況を教えてください。
本格的に営業活動を開始したのは昨年の10月からですが、現在までに約400件の会計事務所の皆様に会員になっていただきました。
当初の計画からすると、多少進捗が遅いかなとも思いますが、一方ではご利用いただくものが何もない中でのご入会ですから、とてもありがたい数字だと本当に感謝しております。そして年度内には1,000件の会員を目指したく思います。
また当社の資本金は、この6月10日で1億6,250万円になりました。創業時の資本金は1,000万円でしたから、残りの資金はすべて、会計事務所の先生や職員の皆さんが提供してくださった訳です。ということは、この会社は会計人の皆さんの会社だと言っても良いと思います。
当初の入会金と開発預託金に加えて、多くの会員の皆さんが更に出資までして下さったのです。私たちは現在、まだ何もシステムをリリースしていません。提供する物がない段階で、これだけ出資してくださる人がいるということは、本当に有難いことだと思っています。
しかし、逆に捉えると、それは会計事務所の皆さんが、いかに現状に不満を持っているかの表れだと言えると思います。だからこそ、新しいものに期待される。いや、それ以上に自分たちでそれを作っていかなければいけないとまで思っている。そういうことだと思います。
そんな中で、当社は設立から8ヵ月を過ぎた時点で、有価証券届出書を作成して増資を行いました。開発資金の需要が年間で1億円を超える見通しとなったことと、多くの皆さんのご支援で成り立つ企業として、経営の透明性を高める意味でも情報の開示が必要であると感じたからです。有価証券届出書を作成するということは、上場企業並みの監査を監査法人と弁護士から受けることが前提となりますが、当社は先に述べた背景もあり、創立1年以内ではありましたが、有価証券届出書を作成して財務局に受理していただきました。
また当社は経済産業省からエンジェル税制の事前確認書交付企業として認定を受けて、経済産業省のホームページにも掲載をしていただいております。これも当社が第三者割当増資を行う度に地道にエンジェル税制の推進と活用に取り組んできたからだと思います。
その結果、今では創設1年余の新しい企業ですが、情報開示や経営をしっかりとやっている会社だと少しずつ認めていただけるようになってきたと思っています。
―― ところで、会員会計事務所の顧問先はA-SaaSのデータセンターをただで使えるということですね。
そうです。私どものセンターには会員事務所の顧問先データの集合体があるわけですが、会員事務所の顧問先もそのセンターを使うことができます。そして、データを共有することができます。
私どもがそういった形のサービスを提供する背景には、これまで自計化をした多くの顧問先経営者が抱える不満にあります。つまり、自計化をして、日次の業務は便利になったが、監査報告や経営資料が相変わらず月次単位のため、タイムリーさを要求される経営には余り役に立たないというのです。
しかし、A-SaaSのシステムでは、顧問先も会計事務所と同じセンターを使用して、顧問先が日々入力したデータを会計事務所が日々検証することができます。そして、問題等があればすぐに会計事務所から顧問先経営者にその内容を指摘し、指導することができます。
このように会計事務所と顧問先とが日々の業務上の連携を強めることによって、「何かあった時に頼りにできるのは会計事務所だ」という言葉が現実のものとなるわけです。
―― なぜサービスを無償で提供なさるのですか。
単純な話です。開発コストが掛からないからです。データはもともと会計事務所にありますし、顧問先が使うシステムは、私たちが会計事務所向けに作っている財務システムです。その中には財務入力システムもあり、出納帳システムなどもある。それを利用すればいいだけの話ですから、開発にコストがかからないのであれば無償提供でも良いと考えました。
財務システムの9月リリースと今後の開発計画
―― A-SaaSのリリースは今年の9月とのことですね。
はい、まずは9月から12月にかけて財務システムがリリースされ、来年の3月には税務システムが法人税申告書からスタートする予定になっています。そして、最終的に2012年の5月までには全てのシステムが整っていくことになります。
―― その他、考えている計画、あるいは抱負などありましたらお聞かせください。
このA-SaaSを立ち上げるにあたり、営業とカスタマーサポートは基本的に直販、直フォローでなければならないと思っています。なぜかというと、この業界で成功されている企業の多くが直販、直フォローだからです。この理由は会計事務所さんが元々人的サービス業であり、人の絆を大事にされる職業だからだと思います。
そこで当社は、例えばインターネットで手軽にテレビ電話が出来るスカイプのようなシステムを使った顧客サポートを考えています。
事務所で操作されていて、何か分からないことが出てきた時、ある操作をすると、当社のサポートセンターにつながり、マルチ画面でカスタマーサポートの担当者とフェイスtoフェイスのやり取りができる。そんなサービスです。
実は私は、会計事務所と顧問先の将来もそうなっていくだろうと考えています。会計事務所で生産効率を上げるために、職員一人ひとりの担当顧問先数を増やそうと考えた時、問題になるのは顧問先へお伺いする時間が十分に取れるか、満足のいくサービスが出来るか、この2点がポイントになりますが、スカイプのようなシステムを使って簡単にフェイスtoフェイスのやり取りができるようになれば、先述の問題は解決することが出来ます。おそらく近い将来、スカイプのようなシステムは会計事務所にとって、とても重要な位置を占めるようになると思います。
その時のために当社と事務所との間であらかじめ練習をしておきましょうという意味で、今回のサポートにも採用することにしています。
―― 最後に、会計事務所業界に対してメッセージをお願いします。
私たちの会社は、会計事務所の皆さんに全面的に支えられて成り立っています。その気持ちの裏にある先生方のコンピュータ化への思い、事務所経営者としてのニーズを私たちは決して忘れてはいけないと思っています。
会計事務所業界は先駆的にコンピュータ化に取り組み、多額な投資をしてきました。しかし、昨今は企業論理に押されて、大きな時代の流れから取り残されつつあります。
また会計事務所は人的サービス業と言われ、人材勝負、サービス勝負の時代を迎えているにも関わらず、人材に投下するコストはマイナスになり、逆にコンピュータ関連のコストは横ばい、もしくはプラスと云う矛盾した状況が生まれています。この状況を自らの手で打破する必要があると思います。当社はそのお手伝いが出来れば良いと思っています。
また当社は過去のない会社ですから、引きずるものは何もありません。また財産もありません。では、何もないところに、なぜ多くの仲間が集まってこのような会社をやっているかというと、それは会計事務所業界に対する「思い」です。
今までは会計事務所の皆さんのニーズが痛いほど分かっていても実現することが出来ませんでした。その一方で、会計事務所の皆さんには公私とも散々お世話になりました。だから、新しい会社で何もない状態から、皆さんに喜んでもらえるものを作りたい、そういう思いで社員の多くが集まっています。そして、ありがたいことにその思いに多くの会計人の皆さんが賛同し、出資してくださっているわけです。ですから、私たちはこれからもその原点を貫いていきたいと思っています。
―― 本日はリリース直前のお忙しい時にありがとうございました。A-SaaSの今後の発展に期待しています。